当文献は2024年1月10日に子宮頸がんで他界した長年の親しい友人、ビジネスパートナーであった河原麗さんに捧げる。生前、彼女が伝えていたHPVワクチンの普及を引き継ぐために継続して説明、発信している。このプロジェクトは麗さんと今年成人になる私の娘 *に捧げる。大事な人を子宮頸がんで失うことを避けることは可能であることを知って欲しい。 *米国ニューヨーク州 Brooklyn Plaza Medical Centerにて13歳(2017年)と14歳(2018年)の2回のHPVワクチン 接種済み記録 |
HPVワクチン普及遅滞の理由(3)
日本国内の二極化 日本産婦人科学会も警鐘を鳴らし続けたHPVワクチンアクセス空白9年
前の文献では、現在、日本において、子宮頸がん罹患率が後進国並みに高い主要な理由は、2006年に世界でHPVワクチンが認可されて以来、副作用も含めた安全性を検証する初期ステージにおいて、世界中で日本のみがHPVワクチン接種勧奨を停止しHPVワクチンを支持しない立場を国として採ったこと、その理由はHPVワクチン接種の反応だと訴える否定的な“世論”であったこと、その結果、2013年6月の勧奨停止以来、9年間日本女性がアクセスを失ったことにある、と説明した。
日本は2013年4月にHPVワクチンの定期接種を開始したが、6月に否定的な世論によりHPVワクチン接種勧奨を停止、その後2022年に専門家の意見を取り入れ、復旧させたが、先進国において日本の女性だけが取り残された9年間の動向を追った。
<海外では:WHO(世界保健機構)は日本のHPVワクチン接種ブランクへ強い懸念を表明>
前回もお伝えした、日本が提出した目的と合致しない不適切なHPVワクチンの副作用データは、2017年のWHO(世界保健機構)世界ワクチン安全委員会では認められなかったが、その時点でWHOの意見は以下の通り。
・委員会では、ワクチンに関する広範な安全性データが蓄積されているにもかかわらず、誤った症例報告や根拠のない主張により、ワクチン接種に明らかな悪影響が及んでいる事実は、実質的な被害をもたらすことになることを懸念している。 ・HPVワクチン接種プログラムが効果的に実施されている国では、その効果は明らかである。HPVワクチンを予防接種プログラムに導入した国らでは、若い女性間で、子宮頸部前がん病変の発生率が50%減少したと報告されている。対照的に、HPVワクチン接種が積極的に推奨されていない日本では、子宮頸がんからの死亡率は1995年から2005年の間に3.4%増加しており、2005年から2015年の間に5.9%増加すると予想されている。子宮頸がんの加速は、15~44歳の女性で特に顕著である。導入から10年が経過したが、世界全体でHPVワクチンの普及は依然として遅く、子宮頸がん罹患のリスクが高いのは、ワクチン導入を行わない国々である。 |
と、日本の国名を出し、懸念を表明している。WHOの当報告にもあるようにHPVワクチンが世界で初めてライセンス化されたのが2006年だが、当該ウイルス(HPV)に感染した子宮頸細胞が、前がんの異常細胞になるには約5年~10年、がんになるには約15~20年かかることがわかっているため(当シリーズの文献(2)参照)、上記のワクチン導入以前の1995年から2015年まで子宮頸がんからの“死亡率”上昇は、日本の2013年6月のHPVワクチン推奨停止とは無関係であるはずだが、WHOが、日本の2013年の国策に異議を表明し、日本女性の将来を懸念し、危機を予期していたことは間違いない。
*原文であるWHOの英文HPリンク *原文であるWHOの英文PDFリンク(日本に関する供述部分は筆者がピンク色と水色でハイライト)
<日本国内は方針対立:日本産婦人科学会らはHPVワクチン接種積極的勧奨を国に再三訴え>
日本女性がHPVワクチン接種から遠ざかっていた9年の日本国内での状況をたどっていくと、国策と医師らの2極化した意見の対立が見られ、日本の医学会らが繰り返しHPVワクチン接種の積極的勧奨の再開を求める動きや文献が多く記録され残されている。WHOをはじめとし海外では“日本は女性国民に対し懸念の国策を採っている”と、声明や文献で多く発信されているが、日本国内では、以前の文献レポートでも報告したように(バックナンバー参照)、医師らは、低HPVワクチン接種普及率の結果からの、後進国並みの高罹患率になっている日本女性の命を救うべく子宮頸がんの前がん状態に対する治療に専心し、当疾患からの死亡率を先進国並みに抑える努力を続けると同時に、国に対しHPVワクチンの奨励再開を求める意見を繰り返し発信していた。2016年4月にはHPVワクチン普及促進を訴える日本産婦人科学会、日本小児科学会を筆頭に17の医学学会らが共同声明を送っている。
世界の専門家が日本に対する懸念と批判を発信していたと同時に、日本産婦人科学会の会員である日本医師らも、日本の危機、HPVワクチンの奨励再開を訴える文献を英文でも世界に多く発表している。HPVワクチンブランクの9年間、日本産科婦人科学会は、科学的見地からHPVワクチンと検診の重要性を一貫して訴えてきていた。
<行政機関は不協和音:2022年厚労省ワクチン支持と矛盾し文部科学省ワクチン否定指導>
日本国内において、日本国民の運命を国策によって決定する国側と、対子宮頸がん罹患治療に奔走する医療専門家群間で、HPVワクチンに対する見解の2極化が9年間見られた後、2022年4月に厚生労働省が、科学的専門意見を基に、HPVワクチンの積極的勧奨の差し控え終了を決定し、日本の方針を変換した同年9月に、文部科学省からはHPVワクチンに関して否定的な方針を出した事実がある。
2022年9月に文部科学省は、医学教育課程を置く全国の大学に対し、HPVワクチン接種後の反応を「薬害」と抗議する反ワクチンの団体の非難文書を添え、HPVワクチン接種の「薬害被害」について授業を実施するように指導通知し、この結果、医学部81校中80校、歯学部29校中29校、看護学部299校中254校、薬学部79校中79校でHPVワクチンの有害性を教育する授業が実施された。日本の医療の将来を支える学生に対し、厚生労働省の積極的接種方針とは相反する教育指針を指示したことになる。厚生労働省はこの時点で、HPVワクチンの積極的勧奨の差し控えを行っていた9年間にHPVワクチン接種を逃した女子を対象にキャッチアップ接種を実施開始していたが、この文部科学省からのHPVワクチンを薬害とする教育方針が大学に通知された学生世代は、キャッチアップ接種の対象者に該当する年代でもあった。
この日本の国としての矛盾した方針に関するニュースは世界でも発信されたが、この日本の行政機関間の一貫性に欠けるHPVワクチン方針が、当ワクチン接種普及遅滞を助けたとも言える。
次回もHPVワクチンの普及遅滞の理由である9年間の空白について説明を継続していく。
当文献の目的は、麗さんが望んでいた、日本の次世代の女性へ正確な情報を発信しHPVワクチンの普及を助けるためである。
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