お問合わせはこちら
Menu

後れを取る日本のHPVワクチン普及
大切な友人、河原麗さんに捧げる(3) ()

子宮頸がんとHPVワクチン(3)

当文献は、2024年1月10日に子宮頸がんで他界した長年の親しい友人、ビジネスパートナーであった河原麗さんに捧げる。彼女が逝去してから3週間が経つが、多忙を理由に当文献を継続的に早めに発信することが出来ない反面、この1月、彼女を思わない日はなかった。多分、仕事に、家族に、と、非常に多忙であったにもかかわらず私への返事は驚くほど早くに返してくれてきた、まめで効率的な麗さんが“清水さん、早く発信して!”と言ってきているのだと思う。彼女が生前、伝えていたHPVワクチンの普及を引き継ぐために、継続して説明、発信していきたい。このプロジェクトは、麗さんと今年成人になる私の娘 *に捧げる。これ以上、大事な人を失いたくない。                                  

  *米国ニューヨーク州 Brooklyn Plaza Medical Centerにて13歳(2017年)と14歳(2018年)の2回のHPVワクチン接種済み記録

<子宮頸がんとHPVワクチンの歴史>

HPVワクチンを理解するために、歴史を見ていこう。

子宮頸がん発症の原因は何百年も探られ続けられていたが、わかっていなかった。研究者内では、多くの推測論が語られていたと言う。我々の女性の祖先達は、原因不明な子宮からの大量出血などを含む重篤な症状を伴う子宮頸がんに対し、若くして子宮摘出などの処置も含め、防御の方法論なく戦ってきた。

あまり知られていないが、HPVワクチンの初期の歴史は、1951年から始まる。米国ジョンズホプキンズ病院にて、30歳の子宮頸がんの患者、Henrietta Lackのがん細胞を彼女の担当医であったGeorge Gey医師が研究のために(無断で)採取した。彼女の氏名のイニシャルを取ってHeLa細胞と呼ばれている当細胞は、現在の子宮頸がんと当ウイルスの関係性を発掘する原点と言われている。また、アメリカのロックフェラー大学勤務のウイルス学者Richard Shope医師も、1930年代に、あるウイルスの感染が、さまざまな症状を引き起こす可能性があるのではないかという仮説を掲げていた。

右往左往の推測と模索の研究分析時期を経て、1983年になって初めて、HaLe細胞やShope医師の仮説を基礎とし、DNA 技術の進歩の恩恵も伴い、ドイツのウイルス学者Harald zur Hausen医師が、DNA増幅法により、子宮頸がんの原因であるパピローマウイルス(HPV)というウイルスを特定することができた。この発見が、数十年に亘る、子宮頸がんと闘う治療法確立とワクチン開発の始まりとなる。

1991年にオーストラリアのクイーンズランド大学のJian Zhou医師と Ian Frazer医師がワクチンの原点を作ることに成功し、この技術を基に、米国国立がん研究所細胞腫瘍研究室長のDouglas R. Lowy医師とJohn Schiller医師が HPV ワクチンを開発した。

2006年にメルク社のガーダシル4(Gardasil 4 、Merck 製) は 4 つのタイプのHPV (6、11、16、18) に対応するワクチンを発表した。7年の設計時間と徹底的な検査を伴う臨床試験の結果、このワクチンはHPV 16型および18型に対してほぼ100%の防御が確認され、米国食品医薬品局(FDA)が9歳から26歳の女児への使用を承認した。

2007 年初めには、メルク社のガーダシルの競合となるグラクソ・スミスクライン(現GSK)が、HPV(16、18)に対応するワクチン、サーバリックス(Cervarix.)を米国での承認申請をした。2007年6月にはオーストラリアで認可、2007年9月にヨーロッパでも認可されたが、米国における承認は少々遅く、2009 年 10 月の承認になっている。

この2009年には、米国食品医薬品局(FDA)はメルク社のガーダシルのワクチン使用を、性器いぼの予防目的で9歳から26歳の男児にも使用承認を拡大した。

このメルク社とグラクソ・スミスクライン(現GSK)による2つのワクチンは、13年のワクチンの商標に関する戦いが当ワクチンを開発したオーストラリアのクイーンズランド大学、米国のジョージタウン大学、ロチェスター大学、米国国立がん研究所間であったが、結果的に、両薬品会社ともに、この4つの機関と著作権を合意することで決着している。

2014年にメルク社は第二弾として、ガーダシル 9 (HPV 9)を開発。この新しい株は 、ガーダシル4(HPV 4)が対応していた高リスクの癌を引き起こすHPVに加えて、低リスクのいぼを引き起こすHPV に対応する防御も追加された。現在、米国では、 HPV ワクチンとして、メルク社のガーダシル 9のみが使用されている。数字の9は9種のHPV 型からの感染を予防することを意味する。

9種とは                              

* HPV 16 と 18 (子宮頸がんやその他の HPV がんの約 70% を引き起こす高リスク型 HPV2種)

* HPV 31、33、45、52、および 58 (子宮頸がんのさらに 10 ~ 20% を占める高リスク型HPV5種)                             

* HPV 6 と 11 (性器いぼの 90% の原因)2種

の計9種である。                 

最終的な承認を決定する臨床試験において、発がん性の高リスク型HPV全7種類によって引き起こされる、HPV関連の6種のがんの予防に対して、ほぼ100%効果があることが判明し、この効力性から米国食品医薬品局(FDA)はメルク社のガーダシル 9 (HPV 9)を米国での使用に承認し、2016年にグラクソ・スミスクライン(現GSK)のサーバリックス(Cervarix.)は、米国市場から撤退した。海外では今だに、HPV予防のために継続して使用されている。 

2018年、米国食品医薬品局(FDA)は、ここまでは<ワクチン接種を受けていない26 歳までの全員が HPV ワクチンを接種する>とするガイドラインを、27~45歳の女性と男性のワクチン投与も可能という承認へ拡大させた。

2019年10月までに、世界100か国がHPVワクチン接種を定期的なワクチンスケジュールに組み入れた。

2020年には、米国食品医薬品局(FDA)は、子宮頸がん予防のみに承認していガーダシル 9 を追加研究に基づき、当ワクチンの対象を膣、外陰部、肛門、中咽頭、頭部と首のがんへと拡大させた。

2030年を目標に、世界保健機関 (WHO) は、ワクチンで予防可能な子宮頸がんを次世紀以内に撲滅したいという指針を出している。目標としては 

*女性の90%が15歳までにHPVワクチンを完全に接種すること                            *女性の 70% が、35 歳までに第一回めの子宮頸がん検査を受け、45 歳までに2回目の検査を受けること                   *90%の前がん状態の細胞を治療し、90%のがんの治癒

を目指している。

米国では、10年前になる2014年から現在に至るまで、その効力性から、HPV に対応するワクチンとしてメルク社のガーダシル9のみが使用されている。 

<日本のHPVワクチンについて>

上記のパピローマウイルスHPVワクチンに関する変遷を踏まえ、日本のパピローマウイルスHPVワクチンについて見ていこう。

現在、日本でのワクチンは3種ある。                    

*2価ワクチン(HPV2、サーバリックス)                                   日本200912月発売時は任意接種。定期接種はアメリカら7年遅れの20134月。**                                                

4価ワクチン(HPV4、ガーダシル)                                    日本20118月発売時は任意接種。このワクチンは米国で2006年に承認、使用されていたガーダシル4Gardasil4)で、現在、承認・普及しているメルク社のガーダシル 9 (HPV 9)の前身である。定期接種はアメリカら7年遅れの20134月。**                                                 

9価ワクチン(シルガード)                                         米国が2014年に9価ワクチンであるメルク社のガーダシル 9 (HPV 9)を承認使用開始しているところ、日本で9価ワクチン導入は20212月に、同メルク社の日本法人であるMSDが、同HPV 9のワクチンをシルガードという名前で発売し、定期接種*はアメリカから約10年遅れの20234月に開始となった。

米国でのHPVワクチンは、9価ワクチンであるガーダシル 9 (HPV 9)のみが使用されており、日本が使用している“ガーダシル”はアメリカが以前18年前に承認して使用していた旧バージョンの4価ワクチン(HPV4)を指し、日本の現9価ワクチンは、現米国の9価ワクチンであるガーダシル 9 (HPV 9)の名称を海外用に変えたシルガードとしている。 

*定期接種とは公費で無料で接種が可能であること                             **2013年3月29日の参議院で4月1日から定期接種が可決成立

<世界の15歳までの女子のHPVワクチン接種完了率の比較>                   (世界普及率はWHO*、日本接種率は厚生労働省から引用)

以下、2024年2月現在で、日本厚生労働省のデータが2021年までの発表になっているため、世界保健機構(WHO)からデータ抜粋し、2019年から2021年間の世界の15歳までのパピローマウイルスHPVワクチン接種完了率を比較する。

日本は世界と比較して大きく後れを取っているが、普及率の上昇はここ各年3倍(300%)の速さで普及を急いでいることがわかる。

特記したいのは、メキシコの99%の接種率とシンガポールのこの数年の普及率の速さである。ちなみに世界保健機構(WHO)からのデータによると、メキシコは2015年は11%、2016年は12%だったが、2017年から最新データである2022年までの6年間、99%を保持、シンガポールは最新データの2022年では80%の普及率に達している。これは政府のパピローマウイルスHPVワクチン接種の取り組みによるものであろう。

 

2019年

2020年

2021年

オーストラリア

80%

72%

74%*

カナダ

83%

87%

87%*

イタリア

62%

61%

69%

フランス

33%

37%

46%*

ドイツ

47%

51%

63%*

メキシコ

99%

99%

99%

シンガポール

1%

28%

58%

スペイン

80%

76%

83%*

イギリス

66%

84%

77%*

米国

69%

64%

71%*

日本

1.9~2.6%**

7.1~11.6%**

26.2~34.4%**

* 世界保健機構 WHO https://www.who.int/ 

*世界保健機構(WHO)HPVワクチンセンター出典(2022年10月24日発行)、2024年5月13日当チャート改訂       

**日本に関しては3種のワクチンが存在しワクチンの種類によって完了が2回、3回に分かれるため2回目終了、及び、3回目終了を記入 。引用元:厚生労働省、定期の予防接種実施者数、表のヒトパピローマウイルス感染症欄を参照(最終検索日:2024年4月1日現在)https://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/other/5.html

 

次回は、日本のHPVワクチン状況と普及遅滞の理由についての説明を継続する。

同シリーズバックナンバー(1)                                       同シリーズバックナンバー(2)