当文献は2024年1月10日に子宮頸がんで他界した長年の親しい友人、ビジネスパートナーであった河原麗さんに捧げる。生前、彼女が伝えていたHPVワクチンの普及を引き継ぐために継続して説明、発信している。このプロジェクトは麗さんと今年成人になる私の娘 *に捧げる。大事な人を子宮頸がんで失うことを避けることは可能であることを知って欲しい。 *米国ニューヨーク州 Brooklyn Plaza Medical Centerにて13歳(2017年)と14歳(2018年)の2回のHPVワクチン 接種済み記録 |
HPVワクチン普及遅滞の理由(2)
日本の9年間HPVワクチンアクセス空白が子宮頸がん罹患増へ
大切な友人でビジネスパートナーであった河原麗さん(医師名、居原田麗さん)が子宮頸がんで今年1月に死去されてから早くも半年経った。去年の夏~秋は、治療をしながらも比較的元気で治療先の東京からビデオコールで話をしていた。1月に死去されたとき、まさに49日くらいまでの2か月ほど、毎日彼女のことを考えていて、死去の事実がしっくりこなかったが、流石に半年以上彼女から連絡がない今、本当にいなくなってしまった、そして、命とは、と考えさせられる。彼女が生前に訴えてきた子宮頸がんワクチン促進について調査、分析してきたが、このシリーズの完結も近い。弊社クライアントから、“さくらのホームページからの文献発信と相俟って(あいまって)テレビコマーシャルで子宮頸がんワクチンについて流れています、良かったですね”と5月中旬に連絡をいただいた。
前の文献では、子宮頸がんの罹患率は、各国のワクチン導入の有無、また導入されてからの期間、と相関関係が明確にあることを示し、日本の罹患率の高さが、ワクチン導入が遅い後進国と並んでいる理由は、日本が9年間、HPVワクチンの積極的な接種勧奨を中止していたために日本人女性が当ワクチンへのアクセスを失ったことに大きな一因があることをお伝えした。
<厚労省が2013年6月ワクチン積極的勧奨差し控え決定:日本女性9年間アクセスを失う>
HPVワクチンは、任意接種ながら日本で開始されたのは2010年で、子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業として接種が行われていた。
以前の文献でも記したが、2013年4月に、厚生労働省が予防接種法に基づき、アメリカらから7年遅れで2価ワクチン(PV2、サーバリックス)、及び、4価ワクチン(HPV4、ガーダシル)の定期接種が小学6年から高校1年の女性を対象に国の予防接種プログラムとして定期接種*が開始されていた。
定期接種導入直後、当該ワクチンからの副作用とする反応が訴えられ、大きく日本のメディアでその訴えを取り上げた。ワクチンの副作用、と叫ばれたが、当該ワクチンとの科学的、医学的な関連性は説明されないまま、反ワクチンの世論が形成され、この世論に基づき厚生労働省は定期接種*開始から2か月後の同年6月に積極的な勧奨を差し控える、との決定を下した。9年後の2022年4月に専門家による当該ワクチンの有効性の見解に基づき、同省は接種勧奨を開始とし、当ワクチンを支持する方向に転換させたが、この9年間、日本では、実質的にHPVワクチン接種のブランク(空白期間)となり日本人女性は当国策によりアクセスを失った。
<2013年4月ワクチン定期接種開始から6月停止の2か月で44%の普及率を達成していた>
当表が横長に広がっているため、対応する年号の特定分布が見にくい表示だが、厚労省の予防接種(ワクチン)実施者数の表を参照すると、HPVワクチンである「ヒトパピローマウィルス感染症」は、2013年4月に定期接種が開始され、2か月後には国は政策変換をし当ワクチン勧奨を中止しているにも関わらず、この最初の2か月のみだけで、この時点では対象国民女性(573,000人)のうち1回目のワクチン接種を実施している人98,656人である17.2%、2回目まで実施人口が66,568人の11.6%、3回目まで実施人口が87,233人の15.2%まで達成されており、総計すると、この2か月で対象国民女性573,000人中、一回でも接種を開始していた人は44%の252,457人にも昇っていた。2013年6月に当ワクチン勧奨を中止し、2014年以降の接種各回データは1%以下に落ち込んだ。国民は国の方針に従い、判断に倣う。いかに、国の方針が国民の命を司るか、がわかる。2013年のメディアによる世論形成と、その世論を根拠とした国の決定が、日本女性の子宮頸がんに関する運命を決めたと言える。
HPVワクチン導入当初であった同時期の世界において、HPVワクチンに関して、副作用があるとの主張をメディアが訴えた現象は、英国、デンマーク、コロンビアにも存在した。しかしこれらの国の政府は、主張された副作用に対し、科学的検証を調査していく、という立場を取りながら、HPVワクチン支持を継続した。国として、当ワクチン勧奨を中止という方針を打ち出し、HPVワクチンを対象女性国民から切り離したのは日本だけであった。
*定期接種とは公費で無料で接種が可能であること
<2017年6月WHO(世界保健機構)に日本が提出した疑問の副作用データ>
日本は2013年4月に定期接種を開始し、同年6月に当接種勧奨を中止し、その後2022年4月までこの中止方針が継続されていたが、2017年にWHO(世界保健機構)が発信しているHPVワクチンに関する安全性を説明した報告内*で、WHOの世界ワクチン安全委員会に、日本が提出した副作用データは、関連性のないデータを統計したものとわかり、WHOの当報告書で述べられているように認めらなかった。日本が訴える副作用とする集計データは信憑性が欠けていると判断されたためであろうが、正確なデータを提出すべき専門性、信用性、という意味でも責任問題ではないだろうか。
*原文であるWHOの英文HPリンク *原文であるWHOの英文PDFリンク(日本に関する供述部分は筆者が黄色でハイライト)
WHOのホームページにある2017年夏発信の、HPVワクチンの安全性の報告の簡単なまとめと、日本に関する内容は以下の通り。
・ 2006年にHPVワクチン認可されて以来、現2017年までに2億7000回のワクチンが投与されている。世界ワクチン安全委員会では、2007、8,9、13、14年と調査を行ってきており、アレルギー反応であるアナフィラキシーショック、と、失神に関する報告に対し、アナフィラキシーの確率は、100 万回(1,000,000回)中、約 1.7 件見られ、失神に関しては、注射に対する一般的な不安、ストレス関連の反応からであることが分かっている。その他の副作用は確認されておらず、委員会ではHPV ワクチンを極めて安全であると考える。 ・ 委員会で委員会では、ギランバレー症候群発症をワクチンの副作用と報告しているデンマーク、スウェーデン、フランスからの指摘に対し、英国での1040万回(10,400,000回)の接種後調査と、米国での6270万回(62,700,000回)の接種後調査により、HPV ワクチンのどのブランドにおいても安全性を確認した。英国、米国のデータから、ワクチン100万回投与において、ギランバレー症候群のリスクは見られなかった。 ・ 委員会は、複合性局所疼痛症候群(痛み)、体位性起立性頻脈症候群(立ち眩み)、早発卵巣機能不全、原発性卵巣不全、静脈血栓塞栓症のリスクとワクチンの因果関係、自己免疫安全性の懸念事項も調査したが、見つからなかった。 ・ 妊娠中はいかなるワクチン接種に関しても注意するべきだが、妊娠中に誤ってHPVワクチンを投与された場合の調査でも母子ともに安全性に問題はなかった。 ・ 日本とデンマークからHPV ワクチン接種に関連する症例報告として、複合性局所疼痛症候群(痛み)と体位性起立性頻脈症候群(立ち眩み)が継続して委員会に提出されている。これらの症例は、2015年に当委員会ですで査定されているが、提示された広範囲の症状に対する判断は簡単ではない。日本から、2017年6月に、痛みや運動機能障害など多様な症状を伴う症例データが新たに委員会に提出された。これらの提示された症例は、疼痛科、神経科、リウマチ科、小児科、精神科/心身医学など、日本全国からの複数の病院のさまざまな科からのアンケートを集計されたものであることが分かった。これらの様々な症状は男女両性からのもので、ワクチン接種を受けた人と受けていない人の両方からの集計であった。委員会は、前回の結論同様に因果関係を示唆する証拠はないという結論に至っている。 |
上記の2017年夏のWHO発信のワクチン安全委員会の報告では、日本がWHOにHPVワクチンの副作用に関する症例を継続して2017年6月にも提出している、とある。しかし、日本は接種を開始した2013年4月から2か月のみで当接種勧奨を停止し、その後、接種率は1%以下まで低下しているし(2022年まで接種勧奨中止)、継続して副作用の症例が全国の多くの科から、ワクチン接種を受けていない人のデータも含めて集計されたものが提出されている、とWHOは調査結果として明記している。そして、当報告によると男女からの副作用として提出されている、とあるが、日本では当HPVワクチンは女子適用で接種されている。全世界で子宮頸がんをなくそうと、WHOという世界の保健機構が専門委員会を設置しワクチンを検証しているなか、なぜ、日本が不適切な関連性のないデータを集め副作用のデータ、として提出したことは不可解である。
次回もHPVワクチンの普及遅滞の理由である9年間の空白について説明を継続していく。
当文献の目的は、麗さんが望んでいた、日本の次世代の女性へ正確な情報を発信しHPVワクチンの普及を助けるためである。
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