お問合わせはこちら
Menu

日本女性の運命を分けた子宮頸がんワクチン方針 河原麗さんに捧げる(6) ()

当文献は2024年1月10日に子宮頸がんで他界した長年の親しい友人、ビジネスパートナーであった河原麗さんに捧げる。生前、彼女が伝えていたHPVワクチンの普及を引き継ぐために継続して説明、発信している。このプロジェクトは麗さんと今年成人になる私の娘 *に捧げる。大事な人を子宮頸がんで失うことを避けることは可能であることを知って欲しい。                                                                                                           *米国ニューヨーク州 Brooklyn Plaza Medical Centerにて13歳(2017年)と14歳(2018年)の2回のHPVワクチン 接種済み記録

HPVワクチン普及遅滞の理由(1)

日本女性の運命を分けた日本の方針が致命傷

前の文献では、日本の子宮頸がんの罹患率は世界比較で後進国と並んで悪い状況にあるにもかかわらず、死亡率は先進国と並んで低い数値まで挽回している矛盾は、子宮頸がん治療に対し日本の医師らが世界で突出して力を尽くし、より多くの患者の治癒に専心していることが健闘している数字に表れている、という分析をお伝えした。

では、このように日本医師群が、より多くの日本女性患者の命を高い治療水準を以って助けている事実と反し、罹患率に限っては世界でアフリカ諸国と並んで悪い状況なのだろうか?

<子宮頸がんとHPVワクチンの相関性をWHOデータで検証>

これは、いくつかの理由が統合的に合わされている、と考えられ、順に説明していくが、致命傷は、国の方針のワクチンの取り組みに関わる。当文献(3)にWHO(世界保健機構)から抜粋したデータのワクチンの普及が問題点を表しているが、再度、日本が世界のリーダーの一員であるG7主要国首脳会議メンバー*の7国の普及率の状況を以下に示すと

(図1)G7主要国のHPVワクチン普及率推移

  2019年 2020年 2021年
イタリア 62% 61% 69%
フランス 33% 37% 46%*
英国 66% 84% 77%
ドイツ 47% 51% 63%*
カナダ 83% 87% 87%
米国 69% 64% 71%
日本 1.9~2.6%** 7.1~11.6%** 26.2~34.4%**

                                                   と、G7主要国首脳会議メンバー国中で日本は際立ってHPVワクチンの普及率が低く、以下の罹患率(図2参照)も 比例して悪い状態になっている。   

 

(図2)G7主要国のHPVワクチン子宮頸がん罹患率**

  罹患率 10万人中の患者数
イタリア 6.87% 6870人
フランス 6.99% 6990人
英国 9.90% 9900人
ドイツ 7.63% 7630人
カナダ 5.53% 5530人
米国 6.23% 6320人
日本 15.20%** 15200人**

 

図1(HPVワクチン普及率)と図2(子宮頸がん罹患率)に相関関係があるのがわかる。

 

(図3)世界子宮頸がん罹患率レベル分布**

 対10万人    罹患率 対10万人の患者数 パーセンテージ別該当国例
 薄黄色   4.9%以下 4900人以下 G7国  (日本15.2%・英国9.9%を除く)
  濃黄   <9.81% 最大で9809人 英国(9.9%)
 オレンジ  <14.71% 最大で14709人  
    赤     <19.61% 最大で19609人 日本(15.2%)、アフリカ53国中16国
  濃赤   19.61%以上 19610人以上 アフリカ53国中37国

そのため、世界比較(図3子宮頸がん世界罹患レベル分布)になると、G7主要国首脳会議メンバーの6国とかけ離れ、日本の子宮頸がん罹患レベルは赤帯指定でアフリカと並ぶ。

*主要国首脳会議G7はカナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国で構成される主要国首脳会議G7はカナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国で構成される                     **出典WHO 2021年1月27日データ https://hpvcentre.net/datastatistics.php

 

<子宮頸がん罹患率とHPVワクチン:重要な2つベクトル>

子宮頸がんの罹患率とHPVワクチン接種に関連性があることが上記で分かるが、HPVワクチンの効果が奏するには2つの要素(ベクトル)がある。            

  • 各国のHPVワクチンへのアクセスと導入時期 (ワクチンが当該国で可能か)              
  • 実際の接種実施率(国の奨励設定や定期接種*の導入)

これらは、各国家の方針に依存する

*定期接種とは公費で無料で接種が可能であること

WHO(世界保健機構)は、現在、世界の女性に4番めに多いがんである子宮頸がんと戦うキャンペーン行っている。世界の子宮頸がんを発症するリスクがあるとされる15歳以上の女性人口29億7,280万人中、推定では毎年 604,127 人の女性が子宮頸がんと診断され、2020 年には 341,831 人が子宮頸がんにより死亡しているためだ。

WHO(世界保健機構)は、世界各国政府に向けて、子宮頸がん、及び、肛門などの生殖器がん罹患の70%の原因である対HPV16番・18番を網羅するHPVワクチンの定期接種実施を、がんの検査(スクリーニング)と共に各国の国民の健康ための方針に取り入れ、施行・徹底するように、と指針を出している。(2023年3月10日発表のHPVセンター統計の見出しから)

以下、G7 の各国政府と日本と罹患率が同等のアフリカ諸国等のHPVワクチンを導入した年とその普及率、そして子宮頸がんの罹患率をまとめた。(図4)

  ワクチン導入年 ワクチン普及率 (2021年) 罹患率 (2021年)
イタリア 2008 69% 6.87%
フランス 2007 46% 6.99%*
英国 2008 77% 9.90%
ドイツ 2007 63% 7.63%
カナダ 2008 87% 5.53%
米国 2006 71% 6.23%
日本 2011* 26.2~34.4%** 15.20%
ナイジェリア(アフリカ) 未導入 未導入のためなし 18.40%
エリトリア(アフリカ) 未導入 未導入のためなし  15.30%
モーリシャス(アフリカ) 2016 78% 12.60%
リビア(アフリカ) 2013 データなし 7.70%
ボツワナ(アフリカ) 2015 22% 34.40%

*WHO(世界保健機構)のデータは日本開始は2011年導入となっている。実際は、2価ワクチン(HPV2、サーバリックス)は200912月発売、任意接種開始、4価ワクチン(HPV4、ガーダシル)は20118月発売、任意接種開始であるが米国では2006年からすでに4価ワクチンでの普及開始になっているためWHO(世界保健機構)はこの4価ワクチン適用を基準にしていると思われる。             

**日本では3種類のワクチンが存在し、ワクチンの種類によって完了が2回、3回に分かれるため2回目終了、及び、3回目終了を記入

出典元:厚生労働省、定期の予防接種実施者数、表のヒトパピローマウイルス感染症欄参照(最終参照日:2024年5月27日現在) https://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/other/5.html

 

このWHO(世界保健機構)から抜粋したデータ比較から以下のことが分かる。

  • 日本はG7中でHPVワクチン導入が最も遅い。導入から10年以上経過しているのに普及率が際立って悪い。
  • アフリカ内で導入が早かった2013年導入のリビアの罹患率はG7と並ぶ優良な状況。リビアは日本より遅くに導入し、罹患(患者)率は日本の半数。
  • 罹患(患者)率が非常に高い大陸であるアフリカにおける53国中、21国のみがHPVワクチン接種を政府が導入しているが、他32国はHPVワクチンへのアクセスがない。その21国中大半である15国が2019年以降に導入しているため、当罹患率は2021年発表であるため、効果として表れていない。

 

<2013年の日本の対子宮頸がんのHPVワクチンの方針が致命傷>

日本が、HPVワクチン接種環境が遅れているアフリカと同等の罹患率(患者数)の高さで、赤帯指定になっている理由は、2価ワクチンは2009年に任意接種を開始、4価ワクチンは2011年に任意接種を開始と、G7主要国首脳会議メンバー*国と並んで導入したものの、2013年から2022年の9年間、ワクチンの積極的勧奨差し控えを決定したためである。このことは厚生労働省のページでも現在、以下のように説明されている。

※HPVワクチンは、平成25(2013)年6月から、積極的な勧奨を一時的に差し控えていましたが、令和3(2021)年11月に、専門家の評価により「HPVワクチンの積極的勧奨を差し控えている状態を終了させることが妥当」とされ、令和4(2022)年4月から、他の定期接種と同様に、個別の勧奨を行っています。 

この国家方針により2022年までの9年間、日本人女性はHPVワクチンへのアクセスを失った。

子宮頸がんと闘おうという世界の波と反する日本の判断についてのニュースや、専門家による日本女性の子宮頸がん罹患率の上昇を懸念のする文献が世界で多く発信・発表され、WHO(世界保健機構)の世界ワクチン安全委員会でも、日本のHPVワクチン差し控え方針について、将来の被害の可能性があると繰り返し発表していた。

次回はこの日本のHPVワクチン接種差し控え問題と共に、日本の子宮頸がんの罹患の高さに関連する問題点について説明を継続する。

同シリーズバックナンバー(1)                                       同シリーズバックナンバー(2)                                       同シリーズバックナンバー(3)                                        同シリーズバックナンバー(4)                                       同シリーズバックナンバー(5)