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クルミと同じ大きさの心臓を救う指先 (2)
名小児心臓外科医
Dr. Roger Mee(クリーブランド・クリニック) ()

小さな命たちの命綱 (2) クリーブランド・クリニック小児病院小児心臓科

この日、Mee医師は、いつも通り8時の小児病棟巡回から一日のスタートを切った。巡回後、まず新生児のハイリスク手術を行い、このアンドリューの手術は2件目である。しかし、外はもう暗く、しかもこの赤ちゃんの手術は終わるどころか、また1つ、時間のかかる手術に着手しなくてはいけないことをMee医師は認識していた。胸部動脈と左部冠状動脈にあるバイパスの取り外しをしないといけないのである。大変厳しい状況に陥り始めていた。最初の試みがうまくいかない時は、また一からやり直しなのである。その上、これ以上、無駄な時間を費やすことは危険である。

Mee医師は新たなラウンドに向かって準備を始めた。しかし一時間後、新しいバイパスの最後の針を結び、心臓が動くかどうかを見る心エコー図 (超音波を用いた心臓の検査図) を試みてもらうために心臓専門科医を呼び出したが、結果は思わしくなかった。心臓の機能はいまだひどい状態だったのである。

5時間もの手術の間、Mee医師は身体を弓なりに曲げてアンドリューの心臓に集中していたが、今、手を休め、直立した途端、ぐったりし、言った。 “どうも失敗してしまったようだ。” 暫定措置として、アンドリューは血液が心臓に流れることを助ける装置に繋がれる。看護師の一人が詳細に結果報告を家族に伝えに走ろうとしたそのとき、手術室のドアが開いた。

“Roger!” Mee医師の若いパートナー、ドラモンド ウエッブ医師 (Dr. Jonathan Drummond-Webb) の声だった。 “ドクター! そこにいる男の子に合う心臓が見つかるかもしれないんだ。”

クリーブランド・クリニックの移植プログラムのヘッドであるキチュック医師 (Dr. Maryanne Kichuk) は、 “どうやら今晩、どこかから、心臓が提供されそうだ” という情報を得た。しかしながら、その日のクリーブランド地域はひどい大吹雪で飛行場機能もすべて休止状態に入っているという。心臓はクリーブランドから南に1,600キロ離れた州にあるという。その上、アンドリューは、移植待ちのリストにさえも、名前が載っていない。クリーブランド・クリニックの移植待ちのリストのトップは、クリスティーナである。しかし、残念ながら、クリスティーナの血圧はあまりにも低すぎ、このことは血液内でなにか感染症を起こしていることを示唆していた。

ブルーベリーのように、体中、真っ青に変色して、まさに死に掛けている状態にあった。心臓が届くまで耐えられるとは思われないため、それを待つより先に、手術する必要性のほうが高い、とクリスティーナの担当医師チームは判断していた。移植プログラムのヘッドであるキチュック医師が、リストを見て、クリスティーナの担当医師であるドラモンド ウエッブ医師に吉報を伝えるために電話をしたとき、ドラモンド ウエッブ医師は、 “残念ながらクリスティーナは心臓移植を受けられる状態に現在ない” と答えるしかなかった。そして、その移植用の心臓はどちらにしても、クリスティーナの胸にはサイズ的にも大きすぎた。

移植プログラムのヘッドであるキチュック医師とクリスティーナの担当医師であるドラモンド ウエッブ医師との間に一瞬沈黙が流れた。2人とも同時に同じ事を考えたのである。小児心臓外科ヘッドであり、心臓手術のマイケルジョーダンともタイガーウッズとも呼ばれているMee医師が5時間以上も手術室に閉じこもり、四苦八苦し、Mee医師の小さな患者が死に掛けているのは、周知の事実であった。もしかしたら、タイミングよくその子を助けられるかもしれないではないか、、、

アンドリューの血液型と心臓のサイズは、まさに移植の心臓と適合した。しかしながらキチュック医師もドラモンド ウエッブ医師もこのプランがうまくいくかどうか、確信がなかった。なぜなら、まず、アンドリューを心臓移植プログラムの待ちリストに載せなくてはいけない。赤ちゃんへの臓器提供はとてつもなく貴重なものなのだ。この理由から規則は必然的に厳しい。

ドラモンド ウエッブ医師が、アンドリューの手術室に入り、Mee医師に心臓が出てくるかもしれない、と告げたとき、Mee医師は、 “クリスティーナ ホフマンはどうなっているのだ?” と尋ねた。ドラモンド ウエッブ医師は、クリスティーナの状況を説明した。それ聞いていた心臓専門看護師でありMee医師のシニアアシスタントを務めるマイク (Mike Fackelmann) は、次第に動揺し始めた。 “どうやって、こんなひどい天候のなかで、心臓を取りにいくんだ!” と、雪で真っ白に覆われ、飛行機も飛んでいない状況を示唆して叫んだ。丁度2週間前も、大嵐の中、マイクは着陸の際、大変な目に遭い、1週間前も、最近の悪天候続きの中、当クリニックの成人用輸送チームが飛行機の機内減圧の思わぬ危機のために、緊急着陸せざるを得ない状況に遭遇したばかりだった。

Mee医師は、何か口ごもり、動かなかった。ドラモンド ウエッブ医師も沈黙を守った。外科医のモガ医師は、Mee医師を見つめ、力強く頷いた。Mee医師は、 “オーケー(やってみようではないか)。” と口ごもっていたのだ。

ドラモンド ウエッブ医師は“やるしかない、僕はなんとかしてあげたい”と言い、自分のオフィスに向かった。もちろん、まだなにも決まったわけでも動いたわけでもない。先ほど、アンドリューの両親に話しに行こうとした看護師が、両親ラウンジまで、改めて、なにが起こっているかをアンドリューの両親に説明しに走った。看護師は走りながら、 “何もかもが余りに早急すぎる、、、、、 なんとかなるのだろうか?” と疑問を抱いた。

臓器移植に同意することを決意すること自体、時間がかかる。その上、一病院が、移植可能な心臓が出てきたからといって、ひょいと入り込み、 “うちがもらいますよ。” と申し出、患者に簡単に差し出すわけにはいかないのである。そして、移植された心臓を持っている子供は、基本的に、本質的に、慢性的病気の状態が続く。このことからある医師は、 “結局、移植は、一つの病気から、また違う病気に変換するのと一緒ではないか” と議論する。

アンドリューの両親に話しに行った看護師は、結局、心臓移植の可能性については両親に伝えなかった。と言うのは、クリーブランド・クリニックが必ず心臓を入手することができるかどうか定かでなかったし、できると確定したとしてもこの悪天候の中、どう心臓を輸送するのか、という懸案も解決されていないからである。心臓移植の可能性を話す代わりに、彼女は注意深く、いまのところ、やはり手術は成功に終わっていないこと、そしてMee医師は、アンドリューの心臓の循環がうまく流れるのを助ける装置を設置する用意をしている、と伝えた。その上で、彼女は、アンドリューの両親にすぐにでもアンドリューを心臓移植の待ちリストに名前を載せる手続きをするべきだ、と薦めた。なるべく早くに。今夜中に。

動揺しながらもアンドリューの両親は移植リストに登録することに同意した。そして思ったより早くにクリーブランド・クリニック小児病院小児心臓外科のチームにその心臓が提供される、という吉報が舞い込んできた。となると、次の実質的問題は、 “この大吹雪の中どうやって心臓を取りに行くか。” である。

少々休んだ後、Roger Mee医師はアンドリューの両親と話すために両親の待つラウンジにつづく階段を下りた。Mee医師がラウンジに足を踏み込んだとき、両親とその親族は緊張を高めた。Mee医師の表情は深刻だった。アンドリューの家族たちも既に看護師から思ったように事が運ばなかった旨を知らされていたのでかなり沈んでいた。Mee医師が心臓移植が今現在、アンドリューの生存へのベストのチャンスだと告げたとき、母親は泣き出した。そしてMee医師は両親にあるニュースを告げた。 “アンドリューに適合する心臓が米国南部でみつかっている” と。

(3)へつづく

クリーブランド・クリニック、 クリーブランド・クリニック小児病院小児心臓外科へお問い合わせをお考えの方は、さくらライフセイブアソシエイツまでご連絡下さいませ。

2004年夏、さくらライフセイブアソシエイツ代表とMee医師との会議で、Mee医師は “日本の小さな患者様を是非助けて差し上げたい” と言っておられます。Mee医師は、鋭い中に、深く優しい目を持った存在感のあるお医者様です。また、Mee医師と共にクリーブランド・クリニック小児病院 小児心臓外科を作り上げた小児心臓外科Chairman (会長)、Larry A. Latson医師とも会談し、 “日本の小さな患者様を助ける力になりたい” と言っておられます。

さくらライフセイブアソシエイツでは、全力を尽くし、小さな患者様、そのご家族の力になりたいと考えております。