インド高等裁判所インダー・シン弁護士からの答弁
インド高等裁判所インダー・シン弁護士からの答弁(2013年6月17日現在):
日本人はインドでの代理母依頼は八方塞がりで不可能
インドでの代理母依頼の渡航に必要であるインド代理母用メディカルビザ(医療査証)は、日本の現法律下では申請要件である日本政府からの書簡が揃わないために、日本人は申請不可である。観光ビザ(ツーリストビザ)で不法にインド入国は可能であっても、インド国内の代理母治療を扱う医療機関は、依頼者はインド代理母用メディカルビザ(医療査証)を所持していることを依頼の要件としており、観光ビザ(ツーリストビザ)では治療を受け付けない。
しかし、日本人の場合、このメディカルビザ(医療査証)の問題以外にもインドでの代理母依頼には大きな壁が憚ることが、代理母専門のインド弁護士であるインド高等裁判所のシン弁護士から、2013年6月15日(土曜)、さくらライフセイブアソシエツ・ニューヨーク本社に正式に連絡が入り、明らかとなった。
これまでのインドは、商業代理母が認められていたにも関わらず、代理母に関する規制も規則も無く料金は廉価で、代理母市場天国だった。世界中から依頼者が代理母を求めてインドへ渡航し、年間500億円ビジネスと推算された。前の報告にも書いた通り、規制が無い、ということは、自由に制限を加えられずにビジネスが展開できる反面、いつ規制が成立するか分からない、というリスクが共存していた。
現在のインドの生殖医療に関する医療ガイドラインは、2005年1月末にICMR(Indian Council of Medical Research:インド医学研究協議会)が初めて生殖補助技術に関わるガイドラインとして保健家族省内閣大臣に提出され、Ministry of Health and Family Welfare, Government of India:インド政府・保健家族省の名の下、生殖医療の基礎になるものとして発行されたものである。(以下、リンク参照)
http://icmr.nic.in/art/Prilim_Pages.pdf
http://icmr.nic.in/art/Chapter_3.pdf
ここでは、代理母に関する条項はそれほど詳しく盛り込まれていない。3章10条にある8項目では、代理母の年齢は45歳を超えてはいけない、生涯で3回以上代理母を行ってはいけない、と書かれている。
しかし近年、代理母ビジネスが世界中の注目を浴び、巨大ビジネスになると同時に国際的な問題が出てきて(さくらインド代理母出産速報2013年5月22日参照) 規制する必要が出てきた。ビザ(査証)を通して内政省(Ministry of Home Affairs)と外務省(Ministry of External Affairs)が、国際的な需要側(依頼者)に対して規制を行いインド国家を守ると同時に、代理母サービスの供給側である医療提供(インド国内クリニック)側にも対しても規制を行なうために、刷新された生殖医療技術に関する医療ガイドライン規制が議案として2010年に提出されている。
生殖医療技術に関する医療ガイドライン規制議案2010年(英語原文)
この“生殖医療技術に関する医療ガイドライン規制議案2010年”には、詳しく代理母に関するガイドラインが組み込まれており、2005年のものから大きく改訂されている。
34条5項目には、21歳以下35歳以上の女性は代理母になることは不適切であるとし、条件が厳しくなっている。
問題の項目は34条10項目で、代理出産による子の出生証明書には代理出産を依頼した依頼者の名前が入るべき、としていることである。
日本では、産みの親が母親という定義であることを前提とし、日本人の母親が子を出産した場合、自動的に子は日本国籍を取得する。代理母使用のための医療ビザの取得が必要になった現在でも、そのビザ規制発布以前にすでに代理母に妊娠を確立しているケースに関しては、当然ながら妊娠が継続させているが、その場合、外国人であるインド代理母が日本の出生届け上、子を出産した母親として書かれ、日本人である父親から
- 胎児認知を経て
- 代理母の名が母親として出生証明書として記入され
- その出生証明書をもとに日本の出生届けが記載され提出され
- 子の戸籍が出来る
というプロセスになっていた。
しかし、まだ新しい議案が議会で通っておらず、施行が義務化される法的効力が確立しているとは言いがたい現在、3月の代理母用メディカルビザ(医療査証)の義務化に伴い、この議案の内容も遵守するようになったのか、インド高等裁判所インダー・シン弁護士から、
出生証明書において代理母の名前は母親として使用不可、
という通告が6月15日にさくらライフセイブ本社に正式に届いた。
現在、妊娠継続中のケースのみに関してではあるが(新しいケースは医療査証なしにはインド入国は不可。代理母用治療不可。つまり2013年3月以降、新しいケースは開始されているべきではない)、代理母用の医療査証が申請・取得できない日本人は、異なったビザによる入国となるので規則違反ではあるが、観光ビザでインドへ入国する以外、子を迎えに行く術はない。となると子の出国査証の際、親の査証の照合が求められるFRROで必ず問題になり、日本国の書簡を求められる。その際に、日本大使館には代理母を使用して子がインドで誕生したこと、胎児認知をしていること(日本の国籍を留保している)を話し助けを願うしかなかったが、今回の通知は、それ以前に、代理母の名前が母として使えないとなると母の不在で、そもそも日本人はインドで代理母依頼ができないことになる。子の無国籍問題を唱える以前に、母が不在となるからである。
さくらライフセイブではさくら代表、及び、さくら法務担当(ローレンス・ピアソン米弁護士)が会議を行い、当該条文は非常に曖昧な言語で構成されており、
- 代理母の名を使用できない、と明文化はされていない、
- 依頼者の名前を記入としか記されていない、
つまり、解釈が釈然としないではないか、と議論したが、インド高等裁判所インダー・シン弁護士からは、依頼者の名前のみが記入される、と解釈する、という回答が再度届いた。
この解釈は、現時点(2013年6月17日)でのインド弁護士による状況判断によるもので、まだ今後、議案が通過するかどうか、代理母使用のためのビザ(査証)の制限に変更が加えられるか、などの展開があると思われるし、状況も流動的であるが、日本人は、インド政府からの代理母使用のための適切なビザ(査証)が取得できないだけではなく、日本の国籍取得に関しても問題があり、八方塞りであることは確かなようだ。さくらライフセイブでもインド代理母ケースの既存クライアントのために、3月から状況を見守ってきたが、2013年6月17日、インドクリニックに返金手続き開始を依頼するに至った。この数年、非常に優秀なインドの生殖医療担当医師、そのクリニックスタッフと、沢山の日本人クライアントの赤ちゃんの誕生を祝ってきた。特に去年は18組中15組が赤ちゃんをこの世に迎えた。今回の突然の代理母に関する規制によって、世界中からの依頼者に夢を与えてきたインド代理母への扉が多くのケースにおいて閉ざされたことは、心から残念に思う。