タイ代理母の行方:危険が潜在していたタイ代理母(代理出産)サービスと予測できたリスク
7月24日:戦慄が欧米の代理母(代理出産)業界を駆け巡った
タイ代理母クリニックJunta(現タイ軍隊政府)による踏み込み捜査
7月24日(木曜) Juntaによる代理母クリニックへ手入れ
7月24日(木曜)タイの大手代理母関係クリニックらにJunta(現タイ軍隊政府)による踏み込み調査が入り、アメリカ、オーストラリア、欧州の代理母業界に戦慄が駆け巡った。
7月25日の午前中も、アメリカでは数分ごとに情報が行き交い、25日の午前中に米代理母業界の首脳による電話コンファレンスが行なわれた。さくらライフセイブは、代理母ビジネスの合法性が不透明なタイでの代理母コンサルテーションは一切行っていないながらも25日東海岸朝10時のコンファレンスコールへの参加を要請された。
この時点で、多くのタイランドの代理母出産関係クリニックのホームページのアクセスがダウンされており、すべての関係者が情報収集に奔走した。
さくらライフセイブは、タイでのコンサルテーションは行っていないため、その時点(7月25日)では、状況把握・確認を見守ることとし、弊社ホームページでの情報提供を当情報開示を本日まで控えていた。しかし、誤った情報の流布の存在や情報の欠乏から、多くの日本人の患者様や日本のメディアから依頼、要請されたことから、ここに情報を発信する。
これは、この踏み込み調査の約一週間後、メディアで発表され問題になっている、ダウン症のグラミーちゃん問題、そして邦人の代理母出産の多数の乳幼児の発覚以前からの動きであり、この2つのニュース以前に、タイの軍政府の許されていない商業代理母の取り締まりは開始されていたことを知るべきであろう。
崩壊が予測できた危険が潜在していたタイ代理母サービス:なぜ依頼者たちはリスクを冒すのか?
さくらライフセイブは、2012年のインド代理母規制導入時、つまり、リベラルなインド代理母システムの崩壊時に、世界の代理母産業の調査後に、タイへの代理母サービスの参入はしないことを決定し、2013年春のタイへの視察も辞退していた。その理由は、
2014年8月8日現在、タイには代理母に関する法律自体はないが、タイ医療評議会(the Medical Council of Thailand: MCT)のガイドライン(1997公布、2002年改訂)では、商業代理出産(金銭の報酬が関わるもの)は禁じられており、血縁者のための代理出産のみが認めらていることから、ガイドラインがどの程度、拘束力を持つかが不明瞭な状況であること
タイ医療評議会(the Medical Council of Thailand: MCT)の商業代理出産禁止のガイドラインが存在する中、直接さくらライフセイブ代表が、バンコク生殖医療最大手クリニック医師(All IVF:ドクターピシット)に質疑応答を行なった際の”タイでは当該法律はないため、代理母出産を行なうことはタイでは問題ない”という当医師の意見に矛盾を感じ、解決できなかったこと(All IVFは2014年8月7日(金曜)に軍政府によって閉鎖を余儀なくされた)
タイで子が出生したときの登録:タビアンバーン(ทะเบียนบ้าน)について、代理母出産依頼者に不利である懸念があったこと
から、2013年3月以降、さくらライフセイブアソシエツでは、すべての代理母サービスに対する問い合わせの返答内で、タイでの潜在的リスクには説明してきた。
2013年3月にインドが商業代理母の規制の一環として、医療査証の徹底を開始してから、医療査証の申請の要件が揃わない代理母依頼者たちは、新たな行き先を模索していた。タイへ向かった多くの代理母依頼者たちは、タイの代理母に対する規則がグレーであること、そして、リスクが潜在することに無関心だった傾向にある。しかし、そのリスクは、タイの商業代理母に対するスタンスを理解することに努めると同時に、注意して状況の把握を把握すれば、明確な信号が読み取れた。我々、米代理母業界の首脳は、しばしばその信号を余震と受け止め、タイの代理母サービスの危険性に2013年秋ごろから話題にしている。
この1年のタイにおける商業代理母を取り巻く怪しい雲行き
そのひとつが、2013年9月14日の“タイ医療評議会、商業代理母取り締まり強化へ”というニュースである。(THE NATION 2013年9月14日号 引用)ここでは、タイの医療評議会(議長:Dr Somsak Lohlekha)は、子宮がなく妊娠が出来ない女性らに限って、血液関係にある代理母のみではなく、他人にも代理母依頼が出来るようにしたい、とした上で、タイが商業代理母のハブになっていることを懸念し、取り締まりを強化したい、と表明している。(実際、この他人が関わる医療理由の代理母改訂はなかったようである)
そして、更に2014年1月に、イスラエル人依頼のタイ代理母から出生した65人(双子を1ケースと数えた65ケース)の赤ちゃん(THE Times of Israel, 2014年1月19日号 引用)が、イスラエル当局がこれらの赤ちゃんにイスラエルの市民権を与えられず、代理母から出生したイスラエル依頼者の子供である赤ちゃんたちがタイ出国ができない、という大事件が起きた。その後、イスラエル政府は2014年11月まで出生の子のみまでは市民権を認めるというグレースピリオドを設けた。
このような危ない橋を渡るようなタイの代理母サービスの行方を、多くの代理母業界関係者は疑念をいただきながら、見守ってきた。
そして、タイでは5月22日に軍クーデターによる政変が起きた。ここで軍(Junta)がタイの政権を取ることになり、そのトップがクーデターを宣言したプラユット陸軍総司令官(Prayuth Chan-ocha)である。法律がないとしても、タイ医療評議会(the Medical Council of Thailand: MCT)の商業代理出産禁止のガイドラインが存在し、グレーエリアである商業代理母に関わっている業者、依頼者は、注意すべき政変である。
政権が変わってから約一ヶ月経った6月末に代理母国際法務ネットワークの欧州の弁護士が、彼のクライアントである依頼者(同性愛者)と代理母から出生した1ヶ月の双子の乳児の出国時でもすでに厳しい取締りがあり、空港出国管理取調べ室で1時間半の拘束があり、やっと出国を許された、と言う。拘束時に当局からされた質問では、なぜ、双子なのか、というところから始まったと、欧州弁護士はさくら代表に語った。タイ社会では、先進生殖医療ではあたりまえの体外受精の産物である双子は珍しく、普通は理解されないという。そして、1ヶ月である乳児をなぜ、母親なしに出国させるのか、を、代理母使用を隠し、説明することは難儀であった、と述べた。それまではスムーズに出国できたバンコクであったが、このころからすでに政権による状況の変化が見られていた、とさくら代表にその緊張を伝えた。
5月22日の政変により軍政権の商業代理母や男女産み分けの取締り開始:7月24日の大手生殖医療クリニックへの手入れ
プラユット陸軍総司令官(Prayuth Chan-ocha)は、彼が指揮するタイの地が、怪しい男女産み分けのメッカとなっており、何百人もの中国人が性別選択のために彼のタイ国を目指してやって来る、というレポートを手にし、この数年、彼の国が商業代理母と男女産み分けのメッカになっている証拠をもとに、この超保守的な総司令官は7月24日にバンコクの12の生殖医療クリニックの手入れを指令した。
中国人の男女産み分け(着床前診断)が引き金となりタイの生殖医療クリニック手入れ(The Nation 2014年7月25日号 引用)
このThe Nation紙によると
“軍は生殖技術が、性別選択に使用されているとしたら人身売買に値する、と述べた。また、もし、タイで性別選択が出来るとインターネットなどに広告を出し、サービスを促進しているとしたら、その情報を出しているホームページを運営している者は処罰されるとメディア向けに政府とタイ医療評議会同席のもと話した。”と報道し、”商業代理出産、金銭報酬が関わる卵子提供、性別選択”は犯罪であることを明確にしている。
プラユット陸軍総司令官の手入れ (シドニー・モーニング・ヘラルド紙 2014年8月9日号 引用)
さくらライフセイブにもたらされたインサイダーからの情報によると、この7月24日の軍による不妊専門(体外受精、などの生殖医療専門の代理母を扱う)大手クリニック踏み込み調査の取締りが行なわれた時点では、クリニック側は、軍に対し、商業代理母、そして性別選択の着床前診断は今後行わないことを約束して、一旦、鎮圧した。ここで、商業代理母、そして性別選択の着床前診断を行なっていた大手クリニックらは当該関連治療サービスの新規ケースを完全停止。その旨を、7月末までに、患者、依頼者に伝えることになる。
しかし、8月に入り、オーストラリアの代理母依頼者がダウン症の赤ちゃんをタイへ置いて帰国する事件のニュース、そして同一の邦人の父親から代理母出産にて誕生した多数の赤ちゃんが、コンドミニアムで発見されたケースも発覚した。邦人の連続の代理出産に関連したクリニックであるALL IVFが7月24日の一斉手入れ後、再度、軍の押収手入が入り、明らかに商業代理母サービスを生殖医療クリニックを行なっていた証拠が世界に報道され、違反が明確に指摘され、閉鎖を余儀なくされた。(Bangkok Post 2014年8月8日号 引用)
現在、全ての欧米の大手タイ代理母エージェンシーは広告ホームページを取り下げた。そして、大手の生殖医療クリニックは、軍の命令に沿い、”商業代理出産、金銭報酬が関わる卵子提供、性別選択”の治療サービスを停止している。
依頼者の自己責任を問う:危機管理の甘さ
ここで、特に代理母出産などの依頼を鑑みる者は、大きなレッスンを学ぶべきだ。
- 当該国が当該治療を合法としているか
- 依頼者は自国の法律は勿論、依頼先の国における当該治療や契約の合法性、違法性を把握するべき
- 当該国の政治的情勢にも十分に把握し、モニターをする必要がある
- インターネットの商業目的の情報が本当に正しいか判断する必要がある
- 数の専門家から意見を聞き、当該国の在日大使館、及び、当該国に在る日本大使館や日本領事館に伺うべき
邦人によるインド代理母依頼のための査証違反の報告
インドでも2013年3月から代理母依頼には必ず代理母依頼目的のインド政府から医療査証が必要になっているにもかかわらず、2014年初夏の時点で、いまだに日本人が観光査証で入国していることが欧米の代理母業界では語られている。アメリカ人の複数のエージェンシー社長らは、インドでのこの医療査証違反を行なっているのは、現在、日本人のみだ、と話している。タイの件も然りだが、結果的には、契約の所在は、契約者(依頼者)であり、自己責任であることを認識して、慎重に契約を鑑みるべきである。